53.息子の家庭内暴力の理由がわからない
Q.高校2年生の息子の家庭内暴力に悩んでいます。小さい時から、ピアノ、習字、絵画、塾など将来に役立つことは、何でも学ばせてきました。学校も送り迎えし、父親として精いっぱいの教育も受けさせました。そのお陰で、息子は、スポットライトを浴びたいい人生を歩んでいると自負していました。ところが、高校2年生になった途端、息子が暴れ出したのです。「子どもの思いになりなさい」と育児書にあったので、「タバコも酒もやめろ」と息子が言えば、従ってきました。それなのに、暴力はエスカレートする一方です。何がいけなかったのか、原因がわかりません。
A.不謹慎と思われるかもしれませんが、お話を聞いて、息子さんが今、暴れてくれてよかったと思いました。もしもこのまま、お父さんが敷いたレールの上を歩き続け、「人生は一色」と思い込んで育ったとしたらどうでしょう? 社会に出て、多様な価値観の中で息子さんは、どうやって人とコミュニケーションを図っていくのでしょうか。今、暴力をふるうこと以上に、社会人になってからの挫折の方が、息子さんの心に与える傷は大きく深いものとなってしまうでしょう。ですから、今、息子さんが暴れてくれて、そして、お父さんも息子さんとの関わり方を改めて見つめることができて、本当によかったなと、思うのです。
お父さんの子育て、まさに過干渉ですね。息子さんの今までの人生が「いい人生」なんて、とんでもない思い違いです。息子さんは、切なくてもつらくても、親の意向に沿って、親が敷いたレールの上をがむしゃらに走ってきたのです。それが今、「お父さんが敷いたレールは嫌だ。ボクの生き方がある!」と自己主張しているのです。それは同時に、自分らしく人間として生きていきたいという息子さんの心の叫びなのです。
「子どもの思いになりなさい」という育児書の言葉に従って、お父さんがしてきたことは、息子の言いなりになっただけのこと。そうした親の態度は、子どもからして見れば、最も腹が立つものです。本当に、子どもが暴れ出した原因が知りたい、子どもとの関係を修復したいと思っておられるなら、お父さん、まず最初に、息子さんに詫びて頂けますか? 「悪かったな、切ない思いをかけてきたな」と。それが「子どもの思いになる」ことの第一歩です。何を言われても、徹底して詫びてください。息子に言われたことに筋が通っていなくても、「親に向かってその言い方は何だ」と思っても、どうか、息子さんの思いを全部、受け止めてあげてください。「ボクはこうやって苦労してきた、お前たちのために!」と言われても「そうだった。つらかったろうな。ごめんな」と言葉の裏にある思いを受け止めてほしいのです。
家庭内暴力で、特に男の子の場合、お父さんのかかわりが重要です。「お前の躾が悪い」などと母親を責めるのはもってのほか。それでは、お母さん自身が安定しない精神状態で子どもと向き合うことになるので、事態を悪化させてしまう危険性があります。父親と母親が真剣に、心を一つにし、わが子としっかり向き合ってください。